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~働きやすい介護職場づくりの工夫~
4-5.不満のしくみを知ること

仕事をしているとスタッフの間から、もっとこれはこうしたほうがいいんじゃないか、あれはああしたほうがいいんじゃないかという意見が上がってきます。場合によっては不満や文句になることもあります。

複数のスタッフが、みなで協力するといっても、人間どうしそれぞれの価値観がありますから、時にはお互いにかみ合わないこともあるでしょう。それは自然なことです。

もちろん何でも好きなだけ言うのがよいと言っているのではありません。ただ、不平や不満でも言うことができる、風通しのよい環境は必要です。

管理者の中には、そのような不平や不満、意見や要望は、ともすると人間関係に緊張を走らせる頭痛の種のように思われる人がいるかもしれません。でも、不満の仕組みを知ることができれば、スタッフたちの不平や不満、意見や要望をチームケアにいかすことができます。不満の内容ではなく、不満の仕組みを知ることです。不満のしくみを知るというのは、不満の内容を知るのとは別のことです。

本編では、「不満の仕組み」について、管理者は、不満の内容とは別に、そもそも不満というものを、どう捕らえたらよいのか。もうひとつは、「不満のあるスタッフと向き合う姿勢」について述べることにします。

なお、本章タイトルの、不満というのは単にクレームという意味だけでなく、上のように、スタッフからの意見や要求という意味も含めて不満と述べています。

 

不満のしくみ

スタッフの離職理由のなかに、事業所の運営のありかたへの不満があげられていました。さしあたって不満の矢面に立つのは管理者でしょう。管理者の中には、スタッフの不満への対応に苦労した、手を焼いた経験をお持ちの人がおられることでしょう。

あるいは逆に、スタッフが管理者の不満に対応しきれず困る場合もあるでしょう。

大勢でひとつのことをやろうというのですから、立場に関係なく何かしらのことで不満が生じるのはある意味自然なことです。問題は不満が起きることではなく、不満をどう扱うか、どう処理していくかということです。今回は、スタッフの不満に管理者が対応することを例に考えてみます。

不満というのは、相手がこれがイヤだ、あれがイヤだと言うのを、こちらが容易に受け入れて応じられれば問題はありません。実際、仕事での些細な不満や要望は、ほとんどの場合、ちょっと話せば折り合いがつくでしょうし、おとなどうしですから折り合いをつけて進めています。ただ、人間関係がうまくいかず問題が生じている場合には、必ずと言っていいほど、どちらかに何らかの不満があって、それが十分に処理されていない場合です。それは、お互いに緊張と憂鬱(ゆううつ)を生じさせ、時には、あの人の顔も見たくないというような気持ちになって、事態は悪化していきます。

しかし一方で、不満のなかには、サービスの質を高めたり、気が付かなかったチームの課題を浮き彫りにしてくれる、重要な意見も含まれている場合もあります。ですから、不満に対する管理者の対応力は、チームケアの質を高めもすれば低めもします。

不満の仕組みを理解するというのは、スタッフの不満を管理者が解消するということではありません。あるいは、不満をあきらめるようスタッフを説き伏せる方法のことでもありません。解消したり、説き伏せたりしなくても処理できる方法を知るということです。不満を不満のままにして苦しくなったり、あるいは寄せられる不満に応じきれなくて苦しくなったりするのを避けるための方法です。

 

そのために理解しておいたほうがよいのは次のことです。どんな不満にも次の三つの要素が含まれています。

 

要素1.「否定のことば」

ひとつは、これはおかしい、これじゃ嫌だという、「否定の言葉」です。不満には、声になっていてもいなくても、必ず「否定の言葉」が込められています。「この管理者は、なんであの新人職員をちゃんと教育しないんだ!おかしい!」、というような言葉です。否定の言葉は愚痴やわがままのように取られるかもしれませんが、じつは、その言葉の裏にチームや個人の課題を浮き彫りにしてくれるヒントが含まれている場合があります。

管理者は、「何が嫌なの?」と尋ねてみてください。その答えにあたるものが「否定の言葉」です。

 

要素2.「期待のことば」

二つ目は「期待の言葉」です。不満には、「否定の言葉」とともに、「期待の言葉」が必ず込められています。否定の言葉の裏返しで、もっと~してほしい、ほんとうはこうがいい、というような、スタッフの期待です。例えば、「管理者には、あの新人職員に対してもっとちゃんと教育をして欲しい」、というような期待です。

当然ですが、不満を述べる人には必ず、それに先立って、こうあるべき、こうあって欲しい、という期待があります。期待通りでないから不満になるわけです。スタッフの中には、否定の言葉や否定の態度で頭がいっぱいになってしまい、自分の期待の言葉を十分に伝えられない人もいます。その場合管理者は、「じゃぁ、どうだったらいいの?」、あるいはもっとストレートに、「何を期待しているの?」と尋ねてみてください。その答えが期待の言葉です。

 

要素3.「動機」

そして三つ目は、否定の言葉や期待の言葉の源、「動機」です。立ち位置とか気持ち、と言ってもよいでしょう。期待したり否定したりするには、当然その源となるその人なりの事情や気持ちがあります。例えば、新人の教育が行き届いていないのを管理者に不満と感じるのは、もしかしたら、その新人職員のせいで利用者に対する介護の質が低下するのを心配してのことかもしれません。あるいは、自分がその新人職員とそりが合わない、気に入らないのを管理者の教育のせいにしたいのかもしれません。同じことを言うのでも動機によってニュアンスが大きく変わります。

管理者は、スタッフの期待の言葉を引用して、「もっとちゃんと教育をして欲しいっていうのはどういうこと?」あるいは、「何かあったの?」と聞いてみてください。スタッフの不満の事情や気持ちが語られてくるでしょう。

 

不満には、どんな立ち位置(気持ち)で、何を嫌がって、どうなればよいのか。つまり、「否定の言葉」、「期待の言葉」、「動機」の三つが込められている。これが不満の仕組みです。

 

不満のしくみを理解した向きあいかた

不満に対応する管理者は、不満の内容を論ずる前に、不満を述べるスタッフの動機、立ち位置を理解しようとしてください。どんなスタッフがどんな内容の不満を述べたとしても、その場で急いで解答する必要はありません。管理者はまず、先ほど述べた三つの要素を本人とともに明らかにしてください。不満を安易に引き受けて抱え込んだり、不満を論破してスタッフを引き下がらせるような態度をとるのは避けてください。そのスタッフは何を不満に思っていて、どうなることを期待しているのか。そして、そもそもそのような期待は、スタッフのどのような立ち位置から、あるいはどのような気持ちから述べているのか。まずそれらを明らかにすることです。

 

仕事の優先順位を問う「期待の言葉」

管理者とスタッフの間で、「期待の言葉」が論じられたら、まずは、優先順位(プライオリティ)の問題と思ってください。一刻も早く期待に応えて欲しいスタッフと、期待の内容は分かるのだけど、すぐにはスタッフの期待通りには応じられない管理者。つまりそれは優先順位の問題です。スタッフの期待が管理者にとって、すぐに応じられる状況であればそうします。ただし、すぐに応じられない場合は、それを正直に伝えます。管理者はスタッフの「期待の言葉」に対して、あいまいにしてやり過ごしたり、期待そのものを却下していると取られかねない言いかたをしてはいけません。例えば、「あの新人職員に対してもっとちゃんと教育をして欲しい!」というスタッフの期待に対して、管理者は、「確かにあなたの言うとおり。でもじつは、もっと手のかかる新人がいて、今はそちらで手一杯。それが落ち着いたら対応するので、それまではみんなで協力して対応してください。」というように伝えます。優先順位の問題というのはそういうことです。

 

仕事の方法論を問う「期待の言葉」

もうひとつ、「期待の言葉」が述べられたら、方法論の問題と思ってください。方法論というのは、誰に何をさせるか、適材適所を考えるということです。例えば、「確かにあなたの言うとおり。でも新人教育は、まずはユニットリーダーと一緒に知恵を出し合ってみて。」というように伝えるのです。

不満を述べるスタッフが、自分の期待を実現させるために、管理者から言質をとって、管理者の権威を利用する方法をとるケースは珍しくありません。自分の言いたいことを管理者にいわせ、自分のしたいことを管理者にさせようとするのです。これには安易に応じてはなりません。

管理者の仕事には、自分が何でもするだけでなく、スタッフたちに仕事をさせることも含まれます。これはどうしても自分がしたほうがよいというものでなければ、可能な限り対応をスタッフにゆだねます。場合によっては、不満を述べるスタッフに任せてみることもできます。そこまで気が付いているのならあなたがやってみて。ということです。ただし、管理者は任せたことに対する責任を取らなければなりません。うまくいかなければ任せた管理者の責任です。

 

理念を問う「動機」

管理者とスタッフの間で「動機」が論じられたら、それは理念の問題です。スタッフの立ち位置や、仕事に向き合う姿勢のことです。動機というのは、何をするかというよりも、”何のために”に焦点を当てたものです。例えば、スタッフに対して、「新人教育をもっとしっかりやって欲しいって、どういうこと?」と尋ねてみてください。チームケアの質を落とさないためでしょうか。それとも、ただ単に気に入らない新人を自分の思いのままにしたいからでしょうか。そういうことが分かってきます。同じことを期待するにしても、動機によって議論の質が変わってきます。

 

不満を述べるスタッフと向き合う際は、どちらかというと、こうして欲しい、ああして欲しいという、「期待の言葉」が論点になる場合が多く、「動機」が論点になることはあまりありません。

しかし管理者にとって、スタッフの不満の言葉はもっともなものの、何かすんなり受け入れにくくひっかかる、腑に落ちないというような場合があります。そのような場合には、「動機」を明らかにすると、はっきりしてきます。

管理者はスタッフの「動機」を明らかにしてください。スタッフがどんな姿勢や立ち位置にいるのが分かると、スタッフのことがよく分かり、信頼関係が築きやすくなります。スタッフも、たとえ自分の期待通りにならないとしても、分かってもらった、という納得は得やすくなります。

そういう意味で、スタッフの「動機」は、事あるごとに触れるものではないにしても、本人と管理者との間で、明らかにしておいたほうがよいことです。